SLII実践ガイド

SLIIにおける状況診断スキル向上:観察と傾聴の実践的アプローチ

Tags: SLII, 状況診断, 観察力, 傾聴力, 人材育成, 部下育成, 研修

SLIIにおける状況診断の重要性と観察力・傾聴力

シチュエーショナル・リーダーシップ(SLII)は、部下の状況(発達レベル)に応じてリーダーシップスタイルを柔軟に使い分けることで、部下の成長を促し、パフォーマンスを最大化することを目指す理論です。このSLIIを実践する上で最も基盤となるスキルのひとつが、部下の状況を正確に把握する「状況診断」です。部下の能力と意欲(コミットメント)のレベルを適切に見極めることができなければ、どのリーダーシップスタイル(S1指示型、S2コーチ型、S3支援型、S4委任型)を選択すべきか判断できず、効果的な関わりが難しくなります。

しかし、部下の状況診断は常に容易であるとは限りません。部下が自身の状況を正確に言語化できるとは限らず、また、リーダー自身も部下の表面的な言動に囚われてしまい、真の状況を見誤ることがあります。ここでその精度を高めるために不可欠となるのが、「観察力」と「傾聴力」です。これら二つのスキルは、部下から発せられる言語情報だけでなく、非言語情報や背景にある状況を深く理解するために極めて重要となります。

本記事では、SLIIにおける状況診断の精度を高めるための鍵となる観察力と傾聴力に焦点を当て、それぞれの重要性、具体的な磨き方、そしてこれらのスキルを組織開発や研修プログラムとしてどのように活用できるかについて解説します。

SLIIにおける状況診断とは

SLIIモデルにおける「状況診断」は、具体的には部下の特定の「目標やタスク」に対する「発達レベル」を診断することを指します。部下の発達レベルは、そのタスクに対する「能力(Competence)」と「意欲(Commitment)」の組み合わせで、以下の4つの段階に分類されます。

リーダーは、部下が今、特定のタスクに対してどの発達レベルにあるのかを見極めることで、最も効果的なリーダーシップスタイル(S1指示型、S2コーチ型、S3支援型、S4委任型)を選択します。この診断がズレていると、部下の状況に合わないスタイルを選択してしまい、かえって部下の成長を妨げたり、パフォーマンスを低下させたりする可能性があります。

状況診断の精度を高める鍵:観察力と傾聴力

部下の発達レベルを正確に診断するためには、部下の「能力」と「意欲」を的確に評価する必要があります。この評価において、部下からの直接的な報告や自己申告だけでなく、日々の言動や状況から間接的な情報を読み取る「観察力」と、部下との対話を通じて深い理解を得る「傾聴力」が極めて重要な役割を果たします。

1. 観察力の重要性と磨き方

観察力は、部下の「行動」や「状態」から、その根底にある能力や意欲の兆候を捉えるスキルです。

なぜ観察力が重要か?

観察力を磨く具体的な方法

2. 傾聴力の重要性と磨き方

傾聴力は、部下との対話を通じて、彼らの考え、感情、懸念、そしてタスクや状況に対する認識を深く理解するスキルです。

なぜ傾聴力が重要か?

傾聴力を磨く具体的な方法

観察と傾聴を組み合わせた実践的な状況診断

観察力と傾聴力は、単独で使うのではなく、常に組み合わせて実践することが重要です。

  1. 対話の前の観察: 部下との対話の機会を持つ前に、日々の様子や過去の言動から部下の状況に関する仮説を立てておきます。
  2. 対話中の観察: 部下との対話中、話の内容だけでなく、部下の表情や声のトーン、姿勢などの非言語情報にも注意を向けます。話している内容と非言語情報に乖離がないかを確認します。
  3. 対話中の傾聴: 部下の話を真剣に聞き、アクティブリスニングや効果的な質問を用いて、部下の内面や状況に対する認識を深く理解します。
  4. 診断の仮説検証: 観察と傾聴を通じて得られた情報から、当初立てた仮説(部下の発達レベル)を検証します。「〇〇という行動が見られるのは、意欲が低下しているためだろうか?」「△△という発言は、タスクに対する自信のなさから来ているのだろうか?」のように、収集した情報から部下の能力と意欲のレベルを総合的に判断します。
  5. 診断結果のリーダーシップスタイルへの連携: 診断した発達レベルに基づき、最適なリーダーシップスタイル(指示的行動と支援的行動の組み合わせ)を決定し、部下への関わり方を調整します。診断に迷いがある場合は、部下と合意形成を図る「リーダーシップ契約」の考え方も有効です。(リーダーシップ契約については別途記事で解説予定です。)

重要なのは、状況診断は一度行ったら終わりではなく、部下の成長や状況の変化に応じて継続的に行う必要があるという点です。継続的な観察と傾聴を通じて、部下の発達レベルのわずかな変化も捉え、リーダーシップスタイルを機動的に調整していくことが、SLII実践の鍵となります。

組織開発・研修における活用

企業の研修企画担当者にとって、リーダーの観察力と傾聴力を向上させることは、SLIIの組織内浸透と実践力向上に直結する重要なテーマです。これらのスキルを研修プログラムに組み込むことで、リーダーはより正確な状況診断ができるようになり、結果として部下育成の効果を高めることが期待できます。

観察力・傾聴力向上研修の設計ポイント

観察力と傾聴力は、SLIIの実践だけでなく、部下との信頼関係構築、効果的なコミュニケーション、ハラスメント防止など、リーダーシップ全般において基盤となるスキルです。これらのスキル向上に体系的に取り組むことは、組織全体のリーダーシップレベル向上に大きく貢献します。

まとめ

SLIIを効果的に実践し、部下の成長とパフォーマンス向上を実現するためには、部下の状況を正確に診断するスキルが不可欠です。そして、その診断の精度を高める鍵となるのが、部下の言語・非言語情報を深く読み取る「観察力」と、部下の内面や背景を理解するための「傾聴力」です。

これらのスキルは一朝一夕に身につくものではなく、意識的な学習と実践、そして継続的な振り返りを通じて磨かれていきます。企業の研修企画担当者としては、SLII研修プログラムにおいて、これらの観察力と傾聴力の向上に焦点を当てたコンテンツを組み込むことで、リーダーが現場で活かせる実践的なスキルを習得できるよう支援することが重要です。

観察力と傾聴力の向上は、SLIIの実践精度を高めるだけでなく、リーダーと部下の間の信頼関係を強化し、より良い組織コミュニケーションを促進します。結果として、部下のエンゲージメント向上や自律的な成長に繋がり、組織全体の活性化に貢献することでしょう。