SLII実践ガイド

SLII®を活用した個別最適な社員キャリア開発パスの描き方

Tags: SLII, キャリア開発, 人材育成, リーダーシップ, 組織開発, 個別最適

はじめに

VUCA時代と呼ばれ、ビジネス環境が目まぐるしく変化する現代において、企業における人材育成のあり方も変化が求められています。画一的な研修プログラムだけでは、多様化する社員一人ひとりのキャリア観やスキルニーズに対応しきれなくなっています。組織としては、社員のエンゲージメントを高め、持続的な成長を支援するために、より個別最適化されたキャリア開発支援の重要性が増しています。

このような背景から、個人の状況に応じたリーダーシップの発揮を重視するシチュエーショナル・リーダーシップ(SLII®)が、社員のキャリア開発支援において有効なフレームワークとして注目されています。本稿では、SLIIの理論をキャリア開発支援に応用する方法、具体的なアプローチ、そして組織として導入する際のポイントについて解説いたします。

SLII®の基本理論とキャリア開発への示唆

SLII®は、マネージャーが部下の状況(特定のタスクや目標に対する「発達レベル」)に応じてリーダーシップスタイルを柔軟に使い分けることで、部下の能力開発とパフォーマンス向上を促進するという理論です。この考え方は、社員のキャリア開発支援にもそのまま応用可能です。

SLII®における主要な要素は以下の通りです。

キャリア開発支援においてSLIIを適用する際は、社員の「キャリア目標達成」や「特定のスキル習得」といったタスクに対する、その時点での能力と意欲を見極め、適切なリーダーシップスタイル(支援の仕方)を提供することが重要になります。

キャリア目標に対する「発達レベル」の見極め方

社員のキャリア開発を支援する際、彼らが目指す目標や習得したいスキルに対し、現在どの「発達レベル」にあるのかを正確に見極めることが第一歩です。単に現在の職務遂行能力を見るのではなく、「そのキャリア目標や新しいスキル習得という観点での」能力と意欲を診断します。

リーダーは、社員との対話を通じてこれらの要素を丁寧に引き出す必要があります。キャリア面談や日々の1on1ミーティングが、この発達レベル診断の主要な場となります。

発達レベルに応じた個別最適なキャリア開発支援

発達レベルを診断したら、そのレベルに合ったリーダーシップスタイル(支援の仕方)を適用します。

キャリア開発対話におけるSLII®サイクル

SLII®の実践は、単なるスタイル適用に留まらず、「目標設定(Goals)→診断(Diagnosis)→マッチング(Matching)→実行(Implementation)」というサイクルを回すことが重要です。これはキャリア開発対話においても同様です。

  1. 目標設定(Goals): 社員と共に、具体的なキャリア目標や習得したいスキルを明確に設定します。SMART原則などを活用し、達成度を測れるようにします。
  2. 診断(Diagnosis): その目標に対する現在の能力と意欲(発達レベル)を、対話を通じて見極めます。自己評価と他者評価を組み合わせることも有効です。
  3. マッチング(Matching): 診断された発達レベルに基づき、リーダーとしてどのような支援スタイル(指示的・支援的行動の組み合わせ)を取るべきかを決定します。
  4. 実行(Implementation): 決定したスタイルで関わり、具体的な行動を促します。定期的なフォローアップとフィードバックを行い、必要に応じて発達レベルの再診断とスタイルの再マッチングを行います。

このサイクルを継続的に回すことで、社員は自身の成長を実感しやすくなり、リーダーはより効果的に個別の成長を支援できるようになります。特に、発達レベルは静的なものではなく、タスクや時間経過によって変化するため、定期的な「診断」と「マッチング」の見直しが不可欠です。

組織としてSLII®をキャリア開発に組み込む

SLII®を社員のキャリア開発支援に活用するためには、個々のリーダーの努力だけでなく、組織的な取り組みが必要です。

SLII®を組織のキャリア開発文化の一部として根付かせることで、社員は自身の成長パスを主体的に描きやすくなり、リーダーはそれを効果的にサポートするスキルを身につけることができます。

期待される効果

SLII®をキャリア開発支援に活用することで、以下のような効果が期待できます。

まとめ

シチュエーショナル・リーダーシップ(SLII®)は、単に日々の業務遂行を管理するためのツールではなく、社員一人ひとりの個性や成長段階に合わせた個別最適なキャリア開発を支援するための強力なフレームワークです。社員のキャリア目標に対する能力と意欲を丁寧に診断し、その発達レベルに合った適切なリーダーシップスタイル(指示と支援のバランス)を提供することで、社員の自律的な成長を促し、エンゲージメントと組織全体のパフォーマンス向上を実現することができます。

企業の研修企画担当者様、人事担当者様におかれましては、ぜひSLII®の理論と実践を学び、貴社における社員のキャリア開発支援プログラムに組み込んでいただくことをお勧めいたします。これにより、社員一人ひとりが輝き、組織が持続的に成長していく未来を共に創り上げることが可能となるでしょう。